労働争議と労動組合
労働条件などをめぐり労働者側と使用者側とで起こる争いを、「労働争議」といいます。
今回は、労働争議と労働組合について紹介します。
労働争議の種類
労働争議について、日本では労働関係調整法6条で「この法律において労働争議とは、労働関係の当事者間において、労働関係に関する主張が一致しないで、そのために争議行為が発生している状態または発生するおそれがある状態をいう」と定められています。
労働争議の種類には、「ストライキ」「サボタージュ」「ボイコット」「ロックアウト」などがあります。
ストライキ
ストライキは、労働を行わないことで、労働者や労働組合が雇用者に抗議する手段です。国際社会においてはストライキをする権利は、国際人権規約(社会権規約)の第8条(d)項で保障されています。
ただし、例外もあります。
日本の公務員は、国家公務員法第98条と地方公務員法第37条によりストライキが禁止されています。これを認めてしまうと、社会が機能しなくなってしまうからです。
たとえば、消防士、警官、自衛隊員がストライキを起こしてしまうと、大きな不利益が国民に降りかかります。
公務員は福利厚生などが充実し、解雇の心配もありません。「なのでストライキの必要はない」という見方もできます。
サポタージュ
サボタージュは、労働者が団結して仕事の能率を落として会社に損害を与え、自分たちの紛争の解決を迫る手段です。
日本では、「怠業(たいぎょう)」と称されることもあります。広義には、部分ストや残業拒否もサボタージュとなります。
フランス語であるサポタージュには、不良品を故意に製造するなどの破壊活動が含まれます。ですがこうした、積極的妨害行為は、刑事および民事で訴えられる理由となります。
サポタージュは、ストライキの認められていない日本の公務員も行うことができます。余談ですが、サポタージュは「サボる」の語源です。
ボイコット
ボイコットは労働者側による抗議活動で、労働者が使用者に経済的打撃を与えるのを目的としています。
消費者に対して自社製品の購買を控えるように訴える行為で、不買運動などがこれに当たります。合法ですが、使用者の取引先に自社との取引停止ないし不買を働きかける二次的不買運動は違法となります。
ロックアウト
これまでに説明したストライキ、サポタージュ、ボイコットは、労働者側の手段でした。ロックアウトはその逆で、使用者側が労働者側に行う対抗手段です。
使用者が労働者に仕事や業務の従事を拒否し、会社の設備や敷地などから退出させることができるのです。
たとえば、作業所閉鎖、工場閉鎖、店舗閉鎖、就労拒否などがロックアウトに当たります。ただしこれには、次の条件があります。
- 「労働組合側による労働争議によって大きな圧力がかけられている場合」
- 「使用者側が著しい打撃を受けている場合」
- 「労働者側の勢力が強く、均衡を保つために必要な防衛手段として認められること」
日本の最高裁判所は、使用者側がロックアウトする権利を認めています。
しかし、労働委員会の判断は厳格で、よほどの理由がない限り行使すべきではありません。最悪、使用者が労働者にロックアウト中の賃金を払わなければならなくなり、結果的に大きな損失を出してしまうことになります。
日本の労働争議の状況
平成28年の労働争議は、391件。総参加人員は、69,533人でした。
前年よりも34件減少し、総参加人員は104,510人減りました。総争議数は、比較可能な昭和32年以降、最も少ない件数でした。
詳細については、次の厚生労働書が発表した調査を参照してください。
日本の労働争議の種類別件数および参加人員の推移
総争議
年次 | 件数 | 総参加人員 |
---|---|---|
平成24年 | 596件 | 125,992人 |
平成25年 | 507件 | 128,387人 |
平成26年 | 495件 | 121,621人 |
平成27年 | 425件 | 174,043人 |
平成28年 | 391件 | 69,533人 |
平成28年の対前年増減数 | △34件 | △104,510人 |
平成28年の対前年増減率 | △8.0% | △60.0% |
争議行為を伴う争議
年次 | 件数 | 総参加人員 | 行為参加人員 |
---|---|---|---|
平成24年 | 79件 | 50,190人 | 12,361人 |
平成25年 | 71件 | 52,350人 | 12,910人 |
平成26年 | 80件 | 74,438人 | 27,919人 |
平成27年 | 86件 | 76,065人 | 23,286人 |
平成28年 | 66件 | 52,415人 | 15,833人 |
平成28年の対前年増減数 | △20件 | △23,650人 | △7,453人 |
平成28年の対前年増減率 | △23.3% | △31.1% | △32.0% |
争議行為を伴わない争議
年次 | 件数 | 総参加人員 |
---|---|---|
平成24年 | 517件 | 75,802人 |
平成25年 | 436件 | 76,037人 |
平成26年 | 415件 | 47,183人 |
平成27年 | 339件 | 97,978人 |
平成28年 | 325件 | 17,118人 |
平成28年の対前年増減数 | △14件 | △80,860人 |
平成28年の対前年増減率 | △4.1% | △82.5% |
出典:厚生労働省「平成28年労働争議統計調査」
争議の状況
厚生労働省の調査によると、平成28年の「争議行為を伴う争議」では、「半日以上の同盟罷業」の件数は31件、行為参加人員は2,383人、労働損失日数は3,190日となっています。
「半日未満の同盟罷業」の件数は47件、参加人員は13,698人です。件数はいずれも減少しています。
産業別に見ると、件数は「運輸業、郵便業」が18件と最も多く、次いで「医療、福祉」が15件、「製造業」14件でした。
参加人員は「医療、福祉」が10,845人と最も多く、次いで「製造業」が1,771人、「運輸業、郵便業」が1,255人となります。
労働争議の要求事項
平成28年の「総争議」の件数を要求事項別に見ると、「賃金」に関する事項が167件と最も多く、総争議件数の42.7%となります。
次いで「経営・雇用・人事」に関する事項が160件。「組合保障および労働協約」に関する事項は、99件。賃金以外の労働条件に関する事項が、59件でした。
労働争議の解決
平成28年に起きた労働争議の391件のうち、「解決、または解決扱い」になったのは328件です。これは総争議件数の83.9%となります。次いで、「翌年への繰越」が63件です。
解決方法では、「労使直接交渉による解決」が46件。これは、「解決、または解決扱い」の件数の14%になります。「第三者関与による解決」が115件(同35.1%)、「その他(解決扱い)」が167件(同50.9%)でした。
解決までの労働争議継続期間は、「91日以上」が最も多く、96件(解決件数の29.3%)です。次いで「30日以内」が88件(解決件数の26.8%)、「31日~60日」が81件(解決件数の24.7%)となります。
海外の労働組合
ヨーロッパから始まった労働組合
18世紀初め、イギリスで産業革命が起きました。この頃の労働者は劣悪な条件に置かれていましたが、労働組合の活動は厳しく弾圧されていました。
19世紀初めにようやく自由主義と社会主義の思想が生まれ、労働者を法的に保護するとともに労働組合を公認する動きが始まりました。1868年にイギリスでの労働組合会議が生まれると、ドイツでは自由労働組合、アメリカでは労働総同盟などが組織されました。
欧米の労働組合は、産業別組合が主流です。
一方、日本では終身雇用制という日本独自の雇用慣行があるため、労働組合も企業別組合が主流となりました。企業別組合は労働者よりも使用者の利益が優先される傾向があります。
アメリカの労動組合
アメリカでは1886年に「アメリカ労働総同盟」という全国的な労働組合運送の組織が誕生しました。
1935年に制定されたワグナー法では、労働者の権利の保障が強化。労働者の権利を保護することで生活を安定し、国内の購買力を高まりました。
日本とは違い、アメリカでは公務員の団体行動を行う権利が法的に保障されています。
中国の労動組合
中国の労働組合は「工会」と呼ばれています。
しかし、工会がない企業も多く、そのような企業では団体交渉などの手順を踏まずに、突然、ストライキが発生するようなことがあります。
このようなストライキでは、労働者側が工場を閉鎖する、経営陣を軟禁するなど、過激になる傾向があるため、各企業では工会を組織する動きが進んでいます。