今回は、昨今急増する労働紛争を解決する手段の一つである「あっせん」について
取り上げてみます。
不幸にして、解雇、賃金、人事異動等を発端とした労働紛争が生じた場合、
解決策は次の3つとなると思います。
①訴訟 ②労働審判 ③労働局における「あっせん」
訴訟、労働審判(解決に至らなかった場合に自動で訴訟へ移行)は、
当事者に対して強制力を持つため、非常に強力な解決方法です。
一方、労働局の「あっせん」は、あっせんの場に参加すること自体に強制力がありません。
また、当事者間が合意に至らない場合はあっせんは終了してしまい、
当事者は訴訟等の別の選択肢を探さなければならず、紛争の解決という観点からみると
強制力の弱い制度と見えるかもしれません。
では、あっせんの利点とは何でしょうか?
最大のポイントは費用対効果と言えるでしょう。
事業主、人事担当者の皆さまは、訴訟、労働審判においてどれほどの費用が必要か
ご存知でしょうか。
訴訟、労働審判は法廷上の争いになるため、やはり弁護士に依頼する必要があるでしょう。
事案にもよりますが、少なくとも30万円~50万円ほどの費用は必要になります
(これは労働審判の難易度を考慮すると決して高い金額ではありません)。
一方、あっせんはどうでしょうか。あっせんを申し立てる費用は無料です。
法廷上の紛争ではないため、弁護士に委任しないと話にならないという訳でもありません。
また、あっせんを申し立てる当事者はある程度のところで妥協して解決したい
という考えを持っている場合も少なくありません。
私の経験では、訴訟や労働審判と比較すると和解金額は低くなる傾向があります。
下記をご覧ください。これは東京労働局が発表した
『平成23年度における個別労働紛争解決制度の施行状況』です。
あっせんの手続を終了した件数 1,335件
あっせん不参加の件数 |
462件 |
あっせん取下げ等の件数 |
61件 |
実際にあっせんを実施した件数 |
812件 |
≪終了の区分≫
当事者間の合意が成立したもの |
547件 |
合意不成立により打切りとなったもの |
265件 |
約35%があっせんに不参加ということは、あっせん参加に強制力がないことを
如実に示しています。
一方で、あっせんを開始した案件においては約67%が解決に至っています。
この数字は決して低いものではないと思います。
弊事務所でも、特定社会保険労務士としてあっせん紛争の代理を受任する
ことがありますが、解決率はおおむね良好です。
当事者としても、特定社会保険労務士に支払う代理報酬は低額なものであり、
訴訟等と比べると経済的な負担を軽減することができています。
確かに、訴訟、労働審判は非常に強力で重要な解決方法です。
事案によっては、あっせんを申請せずに、訴訟等を一義的に選択すべき場合もあるでしょう。
しかし、あっせんにも他者にない利点がある、十分に活用すべき価値があると言えると思います。
佐藤拝